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水島かおり著「帰ってきたお父ちゃん」を読む

壮絶な小説だった。

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おそらく、この家族小説を読んだ人の感想は、皆「壮絶な」「強烈な」「すさまじい」「恐るべき」「パンクな」という言葉を使って表現するのではないだろうか。

いや、なかなか凄いものを読んだ、という感想が真っ先に出てくる。

この「帰ってきたお父ちゃん」という小説は、女優であり、脚本家でもある、水島かおりさんの半自伝的小説である。

題名が「帰ってきたお父ちゃん」という親しみやすさと、表紙の絵の可愛らしさ、そして帯に「抱腹絶倒」と書かれているので、ハートウォーミングな家族愛に溢れる小説だろうと普通は思って読み始める。

私は事前情報なしで読み進めたので、確実にそう思った。

確かに家族愛に溢れる小説なのだけど、何が何だか、もうアグレッシブであり、度を越していて、ちょっとイッちゃっていて、付いていけない部分もある家族の物語なのである。

でも、悲しみとか、可哀そうとか、痛ましいとかそのような気持ちにはならず、めちゃくちゃ過激で、ロックなのだ。

前半は、ほぼ家族の喧嘩が続いていくが、まず冒頭の夫婦喧嘩だとこんな感じである。

「うるさいっ! 黙れっ‼︎」
狭い部屋で物は飛び交うわ、お父ちゃんもセッちゃんも飛び交うわ、着物の袖はびりびりっとはぎ取られ、お父ちゃんのワイシャツも引きちぎられ、ボタンがぽーんと飛んでいく。 私と兄貴はおびえている場合じゃないと、あわてて家の外に避難する。

そして娘の由美子(著者)が絡んでくるとこうなる。

ザーッ!私はお父ちゃんの頭のてっぺんから大ジョッキのビールをぶっ掛け、刺身やらごちそうが載ったテーブルをひっくり返し、止めるセッちゃんを庭へぶん投げ、大きなサイドボードをひっくり返し、茶わんやら何やらをみんなに投げ続けた。

夫婦喧嘩はもちろん、娘と母親、娘と父親のケンカもかなり盛んであり、この三つ巴のケンカが延々と繰り返される。物語前半はほぼこの調子で続いていく。

まぁ一番悪いのは父親であり土建屋のカシラということなのだけど、酒と女とギャンブルに金をどんどん使ってしまうので、生活費を入れずに、とにかくこの家族には金が無いのである。

すべての原因は父親なのだ。

ただ娘も母親も負けていない。挑んでいく。そこが面白い。そして、そこが読ませる。

この後、著者が芸能界に入り、芸名が水島かおりとなり、アイドルとしてデビュー、そして解散後に女優という話も描かれていく。夫となる長崎俊一監督も登場し、まさに半自伝小説として、とにかくおもしろい。

喧嘩や暴力がベースにある小説なのに、こちらの心が荒れたり、すさんだ気分にはならず、あくまで第三者として、この家族全員の生き様に心が傾いていくのを感じていく。

間違いなく2022年のベスト級の作品だと思うが、ほぼ読まれない作品かもしれないので、一人ニヤニヤしながら酒を飲みながら再読している。

 

 

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