本を読もうと思って電車に乗った。
ある平日の休みの朝、このまま家で過ごそうか、映画にでも行こうかと考えていた。天気もいいので、まずは一人で電車に乗って、本を読んで、終点で何か食べて帰ってこようと急に思い立った。
一番の目的は本を読むことなので、行き先はどこでもよかった。東海道線か高崎線か宇都宮線か湘南新宿ラインか。
まず思いついたのが宇都宮線だった。終点で餃子を食べることができるという単純な思いからであり、あまり迷うことなく宇都宮線に乗ることにした。
各駅停車なので、かなりの時間を電車の中で過ごすことになる。よってグリーン券を買った。平日の昼なので車内はガラガラだった。
朝食がわりに駅弁でも買おうか、いっそビールでも飲もうかと思ったのだけど、コンビニでナッツとゆで卵を買って我慢した。
酒が好きなので平日の休みの日なら昼から飲み始めたい気持ちもあるのだけど、この日の目的は本を読むことであって、水で我慢することに迷いは無かった。
車窓は普通の住宅街や工場の風景が流れていくため、特に景色に目を向けることもなく、高村薫の「レディ・ジョーカー」の文庫本・下巻を読み進めた。
ただ油断するとスマホを見てしまう。スマホを見始めたら最後、読書に戻ることもなかなか難しいため、しばしスマホとの決別を誓って、文庫本のページをめくる。
しかしこの「レディ・ジョーカー」という小説は重厚であり緊迫感に溢れ、圧倒的な文章の強さ、そして一つ一つの言葉がとてつもなく深くて重い。そして未知の語句・言葉が数多く出てくる。
それらを読み飛ばしつつ読んでもいいのだけど、一応まめに辞書を引きながら読みすすめる。辞書はスマホに入っている三省堂国語辞典や新明解国語辞典を使用している。そのままスマホの誘惑に翻弄されないよう、心して辞書を引く。
それにしても誰もいないグリーン車での読書は快適である。たまにグリーンアテンダントさんが車内改札や車内販売のために通るだけであり、心地よい電車の走行音とともに本を読むふける。
乗車前にコーヒーを買うことができず、飲み物はペットボトルの水オンリーとなった。次回からは家でコーヒーを淹れて、マイボトルを持ってこようと既に次回のことも考え始めた。
ただこの「電車で読書」という休日。それなりに贅沢な気もする。普通乗車券にグリーン券代となるとなおのこと、これはこれで家で本を読む、喫茶店で本を読むのと比べてしまうと、なかなか頻繁には出来ないという危惧の念を抱いてしまう。
終点の宇都宮に着いた。ホームには「ありがとう205系」ヘッドマークの黒磯行きがちょうど入線してきた。
さっそく餃子を食べに行く。まずは豚嘻嘻（とんきっき）という餃子屋を目指す。
駅からバスに乗れば楽なのだけど歩くことにした。街中までは微妙に距離があるが、餃子を食べるために歩くことは仕方ない。
豚嘻嘻には、ほぼ開店時間に入店できた。餃子が運ばれてくるまでは本を読む。でも運ばれてきたら食べることに集中する。
さっそくビールを注文したくなったが、ここでも我慢。今日の目的は餃子にビールではなく、読書なのだと自分に言い聞かせる。
ここの餃子はレタス巻き餃子といって、肉餃子をレタスに巻き、ドレッシングを付けて頂く。これが旨い。確実にビールに合う。でも今日はひたすら水を飲む。
2軒めは味一番という街の中華屋に入った。餃子うどんなるものが有名な店だが、ここでは焼き餃子と揚餃子を注文した。1枚250円だったので量もそれなりかと思ったら、なかなか凄いボリュームの餃子が運ばれてきた。一人で大丈夫か。
しかし多いなと思っても不思議と食べられる。美味しそうな餃子を目の前にすると箸が止まらない。そして結果的にかなりお腹がいっぱいになってしまった。
次は中古レコード屋を探す。この中華屋から歩いて30分かかるとGoogle Mapは言う。これはこれで丁度いいと思った。餃子を食べたら歩く。それしかない。
でも30分歩くとなると、それなりに遠い。当たり前だけどかなり歩く。
ただ、30分以上かかって中古レコード屋が地図通りに存在し、営業中で本当に良かった。アース・ウィンド・アンド・ファイアーのライブ・アルバムのアナログ盤を買った。
さて、まだ時間的には早かったが、そろそろ帰ることにした。本もまた読みたくなってきた。
さすがに帰りもグリーン車は贅沢すぎるかと思い、普通車両のロングシートに座った。まだまだ電車自体はすいており、そこまで辛くはなかったが、やはりグリーン車のシートと比べると雲泥の差がある。
地元に着いて馴染みの居酒屋に入った。そこで今日はじめてビールを飲んだ。旨い。
読書もまぁまぁ捗った。餃子も旨かった。アースのライブ盤も買うことができた。そして酒を飲むのは夜に限ると実感した。
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