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面白かった?と聞かれて何と答えるか、宇佐見りん「推し、燃ゆ」

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宇佐見りん著「推し、燃ゆ」を読んだ。

読む前に娘と「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」で始まるみたいよ、と少し話していた。娘も「推し」がいるようなので、多少の興味はあるようだった。

「推し、燃ゆ」の主人公に対しては共感する箇所を無理やり探さなくてはならないほど、かけ離れた世界を生きているが、著者の素晴らしい躍動感のある表現によって、一気に距離を縮めながら読んだ。

とにかく文章がうまい。そしていい文章が多い。最初に読んだ時も前のページに何度も戻って、その表現、その描写を再確認しながら読み進めた。

そして「推し、燃ゆ、読み終わったよ」と娘に告げた。娘はいつものように「面白かった?」と聞いてきた。

これは本に限らず映画でもそうなのだけど「面白かった?」と聞かれると、なかなか返す言葉に困ってしまう。それは決して「面白かった」という感情ではないからだ。

娘に限らず様々なカルチャーにおいて「面白かった?」と聞いてくる人は意外と多い。その対象が冒険小説やミステリ小説、そしてアクション映画やドンデン返しのある映画だったとしたら、それは「面白かったよ」と即答するかもしれない。

でもさすがに純文学作品となるとなかなか「面白い」という表現にマッチする作品はあまり多くない印象がある。芥川賞の選考のように、○△×というドライな採点が冷静な評価になる。そう言った意味では「推し、燃ゆ」は○でしかない。

でも「面白い」とは心がひかれることを「面白い」というのであって、「推し、燃ゆ、面白かったよ」でいいのだと思う。どうしても「面白い」には、つい笑いたくなる気持ちが含まれている感じがしていたが「興味深い」と同意なのだ。

娘に対しては「純文学だから面白かったとは素直に言えないけど、とっても良かったよ」という、なんだか父親としての変な見栄と中途半端にかっこつけた、最終的には娘をきょとんとさせる感想を伝えるにとどまった。

素直に「面白かったよ」と言えばよかったのだ。

 

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 

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