Small Things

感じたこと、考えたこと

女王を題材に、フォークとジャズと弦楽四重奏を織り上げた知的な歌集 Becca Stevens - Regina (2017)

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Becca Stevens - Regina (2017)

ノースカロライナ州ウィンストン・セーラム生まれで、ニューヨークのジャズ・シーンを拠点とするベッカ・スティーヴンス。

エスペランサ・スポルディングの作品や、ビリー・チャイルズによるローラ・ニーロ再解釈盤『Map to the Treasure』に参加していた人だと言えば、ピンとくる人もいるだろう。

これが自身名義の4作目で、聴き終えたあとにしばらく言葉が出なかった。

軸にあるのはチャランゴやギター、ウクレレを爪弾く彼女自身の演奏だ。

そこにアタッカ弦楽四重奏や打ち込みのビート、スナーキー・パピーの面々が重なり、サウンドはこれまでになく壮麗になった。

それでも響きは装飾に流れない。

アパラチアのフォークに根を持つメロディーが、ジャズの軋むような和声の上で思いがけない方向へ曲がっていき、どの曲もどこか芯が硬い。

発端は14年にジャズ・ギャラリーから受けた委嘱で、エリザベス1世を題材にしたところから、さまざまな女王や架空の女性「レジーナ」へとテーマが広がっていったという。

シェイクスピアの台詞をそのまま歌詞にした曲もあれば、フレディ・マーキュリーの言葉を借りた曲もある。

唯一のカヴァーはスティーヴィー・ワンダーの「As」で、ジェイコブ・コリアーと共演している。

知的な構想を持ちながら、歌は少しも頭でっかちではない。

ジョニ・ミッチェルが『Hejira』の頃に見せた、和声と言葉の自由なやり取りの遠い末裔にも思える。

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素朴なオオハシの絵画の奥で、異形の音響と美しいメロディが息づく Alex G - God Save the Animals (2022)

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Alex G - God Save the Animals (2022)

生い茂る緑の中に大きなクチバシの鳥、オオハシが佇む素朴な絵画のジャケット。

実の妹が描いたという、この手描きの温かい佇まいがなんとも良い。

Alex Gは、米フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。

2022年に出たこの9作目は、ローファイ界のカリスマと呼ばれた彼の最高傑作だ。

これまで自宅のベッドルームで完結させていた宅録作家だった。

だが本作ではいくつものスタジオを巡り、生楽器を丁寧に録音してから自宅で音を歪ませたという。

奇妙なピッチシフトや電子音が散りばめられているのに、サウンドは驚くほど人懐っこい。

「Runner」のピアノが鳴り響いた瞬間、胸を掴まれるようなメロディの良さに息を呑む。

カントリー調の「Miracles」のように、心に沁みる素朴な名曲もしっかり入っている。

たとえばElliott SmithやNeil Youngあたりが好きな人なら、深く刺さると思う。

ヘンテコな音の実験に驚きながらも、気づけば何度も最初から再生してしまう。

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ざらついたギターの奥に、60年代ポップスの楽しさがある The Apples in Stereo - Fun Trick Noisemaker (1995)

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The Apples in Stereo - Fun Trick Noisemaker (1995)

米デンヴァーのThe Apples in Stereoが1995年に発表したデビュー作。

中心人物のロバート・シュナイダーは、ビーチ・ボーイズなど60年代のポップスに強い影響を受けている。

ただ、その音楽をきれいに再現しようとはしていない。

「Tidal Wave」ではファズのかかったギターが何本も重なり、ドラムも勢いよく鳴る。

録音はかなり粗い。

でも、その騒がしさの中から実に親しみやすいメロディが聞こえてくる。

「Glowworm」のコーラスなど、思わず一緒に口ずさみたくなる。

一方、ヒラリー・シドニーが歌う「Winter Must Be Cold」は、少し切ない曲だ。

サイケデリックな音作りもあるが、実験性よりポップソングとしての楽しさが勝っている。

ビートルズやビーチ・ボーイズへの愛情は感じられるけれど、音はもっと不器用で騒々しい。

その不器用さがいい。

40分ほどのアルバムだが、曲ごとの表情も豊かで、最後まで飽きさせない。

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飾り気のないギターに、忘れがたいメロディがある The Bats - Daddy’s Highway (1987)

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The Bats - Daddy’s Highway (1987)

ニュージーランドのThe Batsが1987年に発表した最初のアルバム。

The Cleanでも活動するロバート・スコットが歌い、ケイ・ウッドワードのギターと声が重なる。

英国ツアー中にグラスゴーの8トラック・スタジオで録った曲と、帰国後に録った曲を収めている。

だからというわけでもないだろうが、音には少しざらつきが残る。

「North by North」はギターの刻み方も歌のメロディも実に気持ちがいい。

「Block of Wood」は軽快で、ついもう一度聴きたくなる。

一方「Tragedy」は同じギター・バンドとは思えないほど、ゆっくりと陰りを帯びる。

声を張り上げることも、演奏を大きく盛り上げることもない。

でも、曲が弱いわけではまったくない。

飾り気のない音だからこそ、メロディの良さがよくわかる。

80年代のインディー・ロックには、こういうアルバムがちゃんとあった。

Daddy's Highway

Daddy's Highway

  • The Bats
  • インディー・ロック
  • ¥1222

music.apple.com

 

郵送されたCD-Rから生まれた、奇跡のように切ない電子ポップ The Postal Service - Give Up (2003)

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The Postal Service - Give Up (2003)

シルバーの背景に、無機質なイラストが描かれたジャケット。

飾り気のないデザインなのに、この佇まいがなんとも良い。

Death Cab for CutieのBen Gibbardと、DntelのJimmy Tamborelloによる唯一のアルバムだ。

LAのジミーが作ったトラック入りのCD-Rを、シアトルのベンへ郵送して制作が進められたらしい。

まさにユニット名(郵便局)の通り、遠距離の手紙のやり取りから生まれた作品だ。

ピコピコとした冷たい電子音と、アコースティック・ギターや生の歌声が不思議なほど溶け合っている。

「Such Great Heights」を聴いた時は、そのキャッチーなメロディに静かな衝撃を受けた。

ゲスト参加したJenny Lewisとの掛け合いも、親密な会話のようで胸を打つ。

たとえば80年代のThe Human Leagueあたりが好きな人なら、一発で気に入ると思う。

夜にふと聴き始めると、あまりの心地よさに思わず最後まで浸ってしまう。

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小さな音だけで、これほど美しい曲が作れる The American Analog Set - Know by Heart (2001)

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The American Analog Set - Know by Heart (2001)

米テキサス州オースティンのThe American Analog Setが2001年に発表した4作目。

前作『The Golden Band』ではギターを前に出していたが、今回はエレクトリック・ピアノやオルガン、ヴィブラフォンが音の隙間を埋めている。

とはいえ、音数は多くない。

ギターは同じフレーズを繰り返し、ドラムも急がない。

アンドリュー・ケニーの歌声は小さく、メロディを強く押し出そうともしない。

それでも「Punk as Fuck」のゆったりした反復は、いつの間にか耳に残る。

「The Postman」にはDeath Cab for Cutieのベン・ギバードが参加している。

「Aaron & Maria」の少し弾む感じもいい。

前作より演奏の色合いは増えたのに、曲はむしろ簡素に聞こえる。

この手の音楽は、ともすると全部同じ曲に聞こえてしまう。

でも本作は、静かなままで曲ごとの表情をちゃんと変えている。

41分が短く感じられるアルバムだ。

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静かな郊外の景色にやわらかな風が吹き抜けるようなギター集 Real Estate - Days (2011)

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Real Estate - Days (2011)

木々に囲まれた、どこにでもありそうな郊外の住宅街の通り。

なんの変哲もない風景なのに、このジャケットがなんとも良い。

Real Estateは、米ニュージャージー州出身のインディー・ロック・バンド。

2011年の秋に名門Dominoから出たこの2ndアルバムは、彼らの代表作と言われている。

高い評価を受けた前作のローファイな手触りから一歩進み、音の粒立ちが驚くほど澄んでいる。

歪んだギターで圧倒するのではなく、クリーンなギターの繊細な絡み合いで聴かせてくる。

1曲目の「Easy」から、きらきらとしたギターのアルペジオが風のように通り抜けていく。

どの曲にも人懐っこいメロディが息づいていて、退屈な日常を優しく肯定してくれるようだ。

たとえばThe FeeliesやTeenage Fanclubあたりが好きな人なら、一発で気に入ると思う。

散歩の途中や晴れた日の朝にふと聴きたくなり、思わず何度も最初から再生してしまう。

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細かな電子音の向こうにある、素朴で美しいメロディ The Notwist - Neon Golden (2002)

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The Notwist - Neon Golden (2002)

ドイツのノーツイストが2002年に発表したアルバム。

もともとはギターを中心としたロック・バンドだったが、前作『Shrink』あたりから電子音楽への接近が目立つようになった。

今回はその電子音が曲の隅々にまで入り込んでいる。

「Pilot」では細かなビートとギターが重なり、曲が進むにつれて独特の浮遊感が生まれる。

「Pick Up the Phone」はストリングスまで加わるのに、歌はとても素朴だ。

マーカス・アーハーの声には力みがなく、少し頼りなくも聞こえる。

でも、その声が「Consequence」のメロディに乗ると、これ以上飾る必要もないように思えてくる。

電子音だけでなく、バンジョーや管楽器まで使っているのに、演奏の面白さを見せつける感じがしない。

細かな音を追いかけるのも楽しいが、結局、聴き終わって残るのは歌のほうだ。

電子音とインディー・ロックがこれほど自然に一緒になったアルバムは、そう多くないと思う。

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赤く染まった夜空の下、静かに胸を締めつける美しい歌たち Phoebe Bridgers - Punisher (2020)

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Phoebe Bridgers - Punisher (2020)

赤く染まった荒野の夜空の下、骸骨の服を着てぽつんと立っている。

この不穏でどこか寂しげなジャケットが、なんとも良い。

米LA拠点のシンガー・ソングライター、Phoebe Bridgersによる2020年の2ndアルバムだ。

高い評価を受けた前作に続くものだが、本作を聴いた時はその美しさと切なさに静かな衝撃を受けた。

基本はギターやピアノの弾き語りだが、そこに幽霊のようなストリングスやシンセが重なる。

つぶやくように静かな歌声なのに、言葉のひとつひとつが恐ろしいほど研ぎ澄まされている。

タイトル曲は彼女のアイドルであるエリオット・スミスへの想いを歌ったものらしい。

軽快なホーンが鳴る「Kyoto」もあれば、ラストの叫び声へと崩壊していく曲もある。

個人的な痛みを歌っているようでいて、内なる音楽世界はとても広大だ。

たとえばエリオット・スミスやブライト・アイズあたりが好きな人なら、深く刺さると思う。

聴き終わると、夜の静けさの中で思わず深く息を吐いて、また最初から聴き直してしまう。

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霞がかったギターと、驚くほど美しいメロディ The Clientele - Suburban Light (2000)

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The Clientele - Suburban Light (2000)

英国のインディー・ポップ・バンド、The Clienteleが2000年に発表した初期シングル集。

もともとは本格的なスタジオ録音を目指していたらしいが、結局、自分たちで録ったデモ音源が中心になったという。

ギターには深いリバーブがかかり、ヴォーカルも少し遠くから聞こえてくる。

音は決して鮮明ではない。

でも、メロディがとてもいい。

「Reflections After Jane」のギターと歌の重なり方など、何ともいえない美しさがある。

60年代のサイケデリック・ポップを思わせる曲もあれば、FeltやGalaxie 500に近い感触の曲もある。

全体的に静かなアルバムだが、曲が単調というわけではない。

「I Had to Say This」のような軽快な曲もあるし、「Lacewings」のギターも印象に残る。

こういう少し曇った音のアルバムは好きだ。

録音の粗さが気にならないどころか、この音でなければ物足りなく感じてしまう。

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