カウンター7席すべてに一人飲みの客が座っている。
のれんをくぐり「1人で」とまず呟いて、店の人の反応を待つ。
元気な店員さんたちではないので、席があれば「こちらのカウンターへどうぞ」、まだ片付けていない場合は「少々お待ちください」となる。
カウンターが満席かどうかは、かろうじて外から把握できるのが救いである。
無事にカウンターにつくと「瓶ビール、アサヒで」もしくは「酎ハイで」とお兄さんに告げる。
この店はカウンター席はおそらく7席、後ろにテーブル席がある。
カウンターは一人飲みのおじさんで占められている。おじさんの実態としては、40代、50代、60代が中心だろうか。たまに30代、70代ぐらいの方も席につく。
ただ7席すべてが一人飲みの事が多い。
そしてこの店にはテレビがない、BGMも無い、そしてカウンターの客同士は喋らない。
よって音という音は、後ろに座って飲んでいるテーブル席の会話の音が中心となる。
ただ、たまにカウンターの客と店の人が話している。どうも母娘とバイトの3名体制でこの店を回しているようだ。
そして意外とその店員さん(母娘)がカウンターの客のことを名前(名字)で呼ぶ。
ただこの店は、いわゆる昭和酒場であり、ボトルキープも出来なく、カウンターの予約も出来ない店なのに、客を名前で呼ぶことに少し驚いた。
この酒場は誰からも邪魔されないのがいい。群衆の中の孤独。
いつ行っても知り合いに出会わず孤独なので、Kindle Oasisを取り出し、向田邦子か伊坂幸太郎、もしくは東海林さだおのエッセイを開いて眺める。
文庫本を出しておもむろに読むより、Kindle専用端末は昭和酒場にもすっと馴染む感じがする。
すでに通い始めて10回、いや15回ぐらいは訪問していると思う。
ただ気のせいかもしれないが、お店の母娘もなんとなくは自分を認識してしているようだ。
それは毎回「こぶくろさし」を注文し、最後に黒ビールの小瓶をたのむからだろうか。
「今日はこぶくろさしが無くてすいません」と言われた時は驚いた。
あだ名はこぶくろおやじ、もしくは黒ビールマンだろうか・・・いや知らないけど。