Small Things

感じたこと、考えたこと

プレイリストの時代にロックの名盤を聴く

 名盤を聴いている。

 名盤とはレコードやCDにおける大ヒット盤、有名盤、もしくは決定盤とされるものだ。60年代や70年代の名盤は、なんとなく聴いた気になっている事が多い。リアルタイムで聴いてきたアルバムも、ある1曲だけは今でも印象に残っているが、それ以外の曲、特にB面に相当する後半の曲に至っては、記憶も曖昧なのが多い。そして後追いで聴いてきたアーティスト、たとえばビートルズ、ストーンズ、レッド・ツェッペリン、ボブ・ディランに至っては、60年代の名盤と言われているアルバムが、その時代を象徴していると言われてもどうにもピンと来ないのだ。

 ただ名盤と言われるものは、その時代に多くの人から支持され、そして売れたという事実がある。だからなんらか魅力あふれるアルバムであるはずだ。でもなかなかその名盤を聴くという行動まで辿り着く事が難しいような気がしている。特に一般的なリスナーは今の音楽を追っていくのに精一杯であり、改めて過去の名盤を聴く必要性も無いのかもしれない。たとえ聴いたとしても、なんとなく古臭く感じてしまう可能性がある。

 たとえば過去の名盤に辿り着く導線として、今自分の好きなアーティストが影響を受けた音楽家を聴いてみたり、その音楽家が新しいアルバムを出したりすることで、過去の名盤に辿り着けるかもしれない。しかしその工程は長く険しい。そもそも過去の名盤を今の時代に時間を割いて聴くという余裕が無いのも事実である。

 星野源がSpotifyで「so sad so happy」というプレイリストを公開している。このプレイリストは星野源が本当にただただ好きな曲を好きな順番でというコンセプトで作成された自らの曲を含めたものである。たとえばアイズレー・ブラザーズのLay Away、ジョージ・デュークのDon't Let Go、Soul GenerationのRay Of Hope、そしてビリー・ジョエルやアル・グリーンと言ったシビれる選曲がされており、そこからそれぞれのアーティストのアルバムを聴いてみたり、過去の名盤にも辿り着くことが出来るかもしれない。しかし名盤まで行き着く道のりは長く遠い。

  以前からロックを中心に音楽を聴いてきた今、なぜか避けてきたアーティストや、どうして評価され続けてきたのかが分からなかった名盤、そして名盤を解説した音楽本を通じて、今名盤と呼ばれてきたアルバムを聴いている。

 たとえばドゥービー・ブラザーズの1978年のアルバムMinute by Minuteを聴いてみて、ここまでフュージョンっぽくこれってAORじゃないかと驚いたり、そこからこの元スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドとは一体何者なのかと調べ始めたり、この心地よいキーボード・リフが耳に残ったりと、自分があまり好きではなかった避けてきた音楽が、今じっくり聴くと好きになっていくのがなんだか面白い。

 フリーという1969年にデビューしたイギリスのロックバンドの Fire And Water (1970年)というアルバムも名盤として認知されているものの、今までじっくりと聴くことはなかった。当時20歳というポール・ロジャースのソウルフルな歌声に加えて、アンディ・フレイザーのベースが脅威的であり、これが平均年齢19歳のバンドとは信じられない演奏と歌が続いていく。なるほどこれは名盤だ、と1970年のアルバムを50年後に聴きなおして確信する瞬間である。

 音楽に関してはなかなか居酒屋とかで酒を飲みながら話す機会が少ない趣味であり、60〜70年代のロックの名盤に関して「良いですよねー」という話になる事もあまりない。よって家飲みの時に名盤を聴きながら、あーだこーだと一人思いを巡らすのが実に楽しかったりする。音盤、名盤というからには、なるべくアナログレコードかCDで聴くようにしたいのだけど、SpotifyやAppleMusicの手軽さから、名盤に接する距離がより近くなったのも確かである。

ぼくが愛するロック名盤240 (講談社+α文庫)

ぼくが愛するロック名盤240 (講談社+α文庫)

 
教養としてのロック名盤ベスト100 (光文社新書)

教養としてのロック名盤ベスト100 (光文社新書)

  • 作者:川崎 大助
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/17
  • メディア: 新書