モンブランが好き、ということになっているようだ。
たまにはイチゴのショートケーキも食べたいのだけど、なぜかモンブランが好きということになっているため、ケーキを食べるときはモンブランである。どちらかというとイチゴのショートケーキの方が好きだと思うのだけど、自分が買う時も何故かモンブランを組み合わせて、結局イチゴのショートケーキではなく、そのモンブランを食べることになる。
これは一体どういう事なのだろうか。まずおじさんにとってケーキを買う、ケーキを食べるということは、とてつもなくハードルが高く、何かいけないことをしている感じになる。なぜかソワソワして、ゾワゾワしてくる。不思議な現象である。まずケーキを買う時のあの恥ずかしさと照れ。「お決まりでしたらどうぞ」と店員さんは言ってくれるのだけど、決まっているわけないのだ。できれば数分考えたいのだ。何種類もあるケーキの中から一瞬で選ぶなんておじさんに求められても困るのだ。
ふと隣にもおじさんがいた。そのおじさんは「シュークリーム5つとエクレア5つ」とだけ言った。非常にスマートなたのみ方だと思った。そうしたら店員さんが「シュークリームはカスタードとホイップ&カスタードのどちらになさいますか?」と聞いてきた。さすがにそんな質問をおじさんは想定していないため「えっと...」と少し考えながら「カスタードで」と言った。想定外の質問がくるとなかなか即座に反応できないのだ。できれば数分間考えたいのである。
そしてまた店員さんが「エクレアはカスタードとモカのどちらになさいますか?」と聞いてきた。おじさんは「じゃあモカ」と言った。おそらくモカがいいという事ではなく、モカという言葉が言いやすかったのだと思う。でも「シュークリームはカスタードを3つとホイップ&カスタードを2つ、エクレアはカスタード2つとモカを3つ」だったかな、と店を出たあと思ったかもしれない。ケーキ屋での注文というのは毎回反省の連続なのである。
そして自分の順番が来た。ソワソワ、ゾワゾワしながらケースをささっと確認してから、即座に「苺のショートケーキ2つと、いちごのシフォンと、渋栗...ん?あ、渋栗のモンブランで」と言った。そもそも渋栗って「栗の渋皮煮」のことなのだろうか、そこがとっさに判断が出来なかった。それを「渋栗」と略すなら「しぶくり」ではなくて「しぶぐり」のはずだ。でも自分は今「しぶくり」と言ってしまったかもしれない。せめて「渋皮栗のモンブラン」であれば「しぶかわぐり」と言っていたはずである。でも渋栗って本当に栗の渋皮煮の事なのか。よく分からないまま結局またモンブランを買ってしまい、その渋栗のモンブランを食べた。
来年はもう「いちごのショートケーキを4つで」と言う事にしたい。そう決めた。ケーキを4つ買うのに4種類のケーキを組み合わせる必要なんてないのだ。ケーキ屋に入店する、イチゴのショートケーキだけを探す、イチゴのショートケーキを見つけたら「いちごのショートケーキを4つで」と言うだけである。
写真は渋栗のモンブランではない。これは「モンブラン・ノエル」と言うパリ風のモンブランであり、たいへんおいしく頂いた。本当においしかった。やっぱりモンブランは奥が深い。まだまだモンブランには知らない世界がたくさんあるのだ。このモンブランというケーキを来年も追いかけていきたくなった。ケーキを4つ買うのに4種類のケーキを組み合わせる必要なんてないのだ。来年は「モンブランを4つで」と言うだけである。